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Wednesday

ウィロビー・バーナーが遺した究極のギア / Antique Cased Prismatic Marching Compass, Verner's Pattern VIII 1919

 英国アンティーク、ケース入プリズムマーチングコンパス。


































使い込まれた本革のケースに入った、ミリタリーコンパスのご紹介です。



アンティーク/ヴィンテージのコンパス(方位磁針)は世界中に数多く出回っており、中でもミリタリー/アーミーコンパスは、多種多様なモデルが存在しています。

中には精巧に作られた復刻版=Reproduction/リプロダクションや模造品などもあって、それらを含め、求める側のニーズもさまざまですが、やはり、古い実物ならではの「味わい深さ」であったり、「わび・さび」へのこだわりであったりと、品質も含めオリジナルは別格といえます。



今回のモデルは、タイプとしては Verners Pattern/バーナーズパターンの Prismatic Compass(プリズムコンパス)となります。基本的なプリズムコンパスの設計は、ドイツ生まれの Charles Schmalcalder/チャールズ・シュマルカルダーによる1812年の特許(特許番号3545)に端を発しますが、Verners Pattern は1895年にさかのぼる重要な開発/発展となります。


プリズムコンパスの基本機能と使い方は次のとおりです。


まず、蓋を90度オープンし、リング部分で畳まれている、プリズムが仕込まれた三角形のパーツを180度持ち上げます。

すると、垂直に立ち上がったパーツの先端に、縦の細い切り欠き(サイティングスリット/照門)が現れるので、その細いスリットに片目を近づけ、隙間越しに見える蓋の丸いガラスに彫られた黒い線(ヘアライン/照準線)を目標物に合わせます。

その状態をキープしたまま、スリット下の丸穴からプリズムを覗きこみ、そこに拡大されて写し出される、円形のコンパスカードに記された目盛りを読み込むことによって、より正確な針路や、地図上での現在地点の把握が可能となります。


この基本原理は、GPSやスマートフォン全盛の現在でも、Lensatic Compass/レンザティックコンパス として、軍用であったり登山などで活用されています。




さて、今回のコンパスをさらに細かく見てみましょう。



まず、蓋の表面に「 VERNER'S PATTERN VIII 」と刻まれています。


これは、William Willoughby Cole Verner/ウィロビー・バーナー(1852-1922)によって新たに開発されたコンパスであることを表し、コアなコレクターに非常に人気のある、英国 Verners Pattern/バーナーズパターンのオリジナルとなります。


英国の兵士、作家、鳥類学者でもあったウィロビー・バーナー大佐は、1852年に生まれ、1874年にライフル旅団/Rifle Brigade(イギリス陸軍の歩兵ライフル連隊)に入隊し、1884-85年のナイル探検隊と1880-81年のボーア戦争中にスタッフを務め、1904年に引退しました。


1887年に、英国ロンドンの製造メーカーである J.H.Steward が、バーナーのコンパスを生産しました。その頃のモデルはプリズムではないポケットコンパスで、蓋には「CAPTAIN. W VERNER'S」と表示されていましたが、これは時系列的にみて「VERNER'S PATTERN III」と推測されます。最初のプリズムタイプは「VERNER'S PATTERN IV」からで、その後 V と VI が続きました。実際、モデル番号をもつ Verners Pattern/バーナーズパターンという用語は、1905年の「VERNER'S PATTERN V」から初めて使用されました。


バーナーズパターンで、最も高く評価されたのは、第一次世界大戦時に製造された「VERNER'S PATTERN VII」と、今回の「VERNER'S PATTERN VIII」です。


この2つの唯一の違いは、コンパスカード/回転盤をロックする機構が、VII の後継の「VERNER'S PATTERN VIII」に追加されたことです。

蓋から下に突き出るように固定されたナイフ型のクリップが、蓋を閉じると同時にケース本体側面のスライドスクリューに噛み合い、その一連の動作の結果、コンパスカードが下から押し上げられて固定される仕組みとなります。



ケース本体の表面ガラスはベゼルリングと一体となっています。ベゼルリングは回転式になっていて(rotating bezelring)、右側面のローレットビスを緩めると、ベゼルリングのギザギザに2本の指を添えて容易に回すことができるので、ガラス面の表示を針路方向や地図上の南北ラインに合わせるなどして使用します。



コンパスカード/回転盤の外周部分は、マザーオブパールが使用されており、これは「VERNER'S PATTERN V」から採用されているのですが、自然光などを乱反射させ目盛りや文字の視認性を高める効果があります。マザーオブパール/mother of pearl は、その名のとおり、真珠を育む母貝のことですが、その真珠層が生み出す表情や天然の光沢は、アクセサリーや時計の文字盤などで重宝されています。




裏面にはもう一つの特徴である矢印のマークが彫られています。


これは「ブロードアロー/Broad Arrow」とよばれるマークで、もともとはヨーロッパにおいて紋章としてつかわれていた「pheon/小槍」などが元といわれており、17世紀末頃から英国の官有物にマークとしてつけられるようになりました。主として軍用でしたが、他の用途にも使われることがあったようです。植民地時代のアメリカやオーストラリアにおいても同様で、軍や官庁などのサーベイマーカーとしての使用がみられます。

英国において、機器や備品関係などにこのブロードアローがついているものがあれば、まずは英国軍のものであった可能性が高いといえるでしょう。


さらに、矢印の下に刻まれている「C.H.KEMP LTD. LONDON」「101484」「1919」は、それぞれ製造メーカー、製造番号、製造年となります。



最後に本革のケースを見てみましょう。

見るからに、かなり使い込まれた様子がうかがえますが、それ故に本革ならではの風合いや艶が増しています。留め具の真鍮ギボシも経年によって深い色合いに変化し、とても馴染んでいます。ギボシの穴周りが若干痛んでおりますが、留め具として支障はありません。全体的に形状の崩れもなく縫製もしっかりしたケースといえます。


そんなケースで保管されていたこともあって、1世紀を経た現在でも、真鍮製のボディはとても素敵な古艶(patina)をまとっており、ガラスも含め深い傷や欠損は見受けられぬほど、とても良いコンディションを保っています。



小さくても持ち重りのする存在感は、当時の軍用コンパスならではの風格を感じます。


第一次世界大戦時に性能を極め、英国軍人の手の中で、そのポテンシャルを発揮したであろう、VERNER'S PATTERN と名付けられた最終モデル。


ウィロビー・バーナーが遺した究極のひとしなを、是非お手元でご鑑賞ください。



◆England

◆推定製造年:c.1919年頃

◆素材:ガラス・真鍮・金属・マザーオブパール

◆コンパスサイズ:幅約5.4cm 全長約7.4㎝ 厚さ約2.2cm(リング、ローレットビスを除く)

◆ケースサイズ:幅約6.9cm 全長約9.8㎝ 厚さ約3.6cm 

◆重量:165g / ケース込220g

◆在庫数:1点のみ



【NOTE】

*古いお品物ですので、一部に微細な傷や汚れ、金属部の経年変化等がみられますが、ガラス部分に目立つ傷はなく、動作も正常です。

*詳細は画像にてご確認ください。

*画像の備品は付属しません。

*上記ご了承の上、お求めください。



アイテムのご購入はショップにてどうぞ。

こちらのバナーからご来店いただけます。


Todd Lowrey Antiques

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クレキー侯爵夫人回想録 第六巻 /Antique Full Calf Binding Book "Souvenirs De La Marquise De Crequy 1710-1802"

 フランスアンティーク、19世紀の古書。


















しっとりしたフルカーフバインディングの古い本。



カーフは灰色がかったモスグリーンで、箔押しが施され、高貴な雰囲気を持っています。表紙はシンプルですが、背表紙のデザインの美しさ、そして表紙エッジ部分に施された緻密な箔押しや、見返しと小口に施されたマーブル調の意匠が凝っていて、さぞ高級品であったことを伺わせます。


タイトルは以下の通り。


"Souvenirs De La Marquise De Crequy 1710-1802"


邦訳はみつけることができませんでしたが、「Marquise」は「侯爵夫人」、「Souvenirs」は「想い出」の意味がありますので、「クレキー侯爵夫人の想い出」もしくは「クレキー侯爵夫人回想録」というような意味かと思います。


「Marquise de Crequy/クレキー侯爵夫人」は実在しており、1704もしくは1714にフランスの北西部のマイエンヌに生まれ、1803年に亡くなっています。


ちなみに、本作 "Souvenirs De La Marquise De Crequy 1710-1802" の作者はブルターニュ出身の「Cousin de Courchamps」とされていますが、クレキー侯爵夫人自身の手によるもの、という説もあるようです。

1834-1835年に全七巻で発刊され、ルイ14世、ルイ15世、ルイ16世、そしてナポレオンまで、主として法廷のゴシップで構成された本作は、どこまでが真実か虚構か不明ですが、かなり人気を博した一方、酷評もされました。ちなみに全七巻のうち、この本は第六巻となります。


1835年といえば、フランスはルイ・フィリップ王(オルレアン朝)の治世。

その前は復古ブルボン朝の治世、そして1842年にはまた第二共和政へと移行する複雑な世情の中、過去のフランス宮廷を舞台にした回想録は、さぞ当時の人々の好奇心を満たすのに十分だったのではないでしょうか。



そんな背景をもつ1冊。

さすがに180年以上経っているせいか、内部の頁には汚れがみられます。

ただ、カーフの表紙は歳月を経て深い色合いに変わり、傷や綻びさえもひとつの景色となって、古書としての味わいを深めております。



本を愛する方へ。

貴方の本棚のマスコットとして、19世紀フランスの古書は如何でしょう。

当時の人々が胸躍らせて繰った頁を閉じ込めつつ、存在を愛でるのも一興かと思います。




◆France

◆推定製造年代:c.1835年

◆素材:革(カーフ/子牛)、紙

◆サイズ:約13.7×21cm 厚み約2.1cm

◆重量:477g

◆在庫数:1点のみ



【NOTE】

*古いお品物ですので、一部に小傷や汚れ、変色や傷み、書き込み等がみられます。詳細は画像にてご確認ください。

*画像の備品は付属しません。

*上記ご了承の上、お求めください。




アイテムのご購入はショップにてどうぞ。

こちらのバナーからご来店いただけます。



Todd Lowrey Antiques

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