優美なフォルムのなかに、力強さを感じさせる五角形のヴィトリーンボックス。
このようにべべルドガラス(面取りガラス)を真鍮フレームで組み合わせた小箱は、主として19世紀フランスでよく作られました。
基本的には直方体で、ジュエリーボックスとしての用途が多く、富裕層のレディたちの化粧台を飾っていた美しい小箱。
ただ、今回ご紹介するのはジュエリーボックスでも直方体でもなく、「五角形の懐中時計用ヴィトリーンボックス」です。
ガラス張りの箱の中央には、懐中時計を掛けるための丸いプレートが配され、上部にはフックがついています。つまり、当時の紳士の必需品、懐中時計を仕舞い、そのまま室内用の置時計へと変化させる美しい装置なのです。
ヴィトリーン(vitrine もしくは vitreen)というのは美術骨董品を入れるためのガラス張りの入れ物のこと。語源はラテン語の「ガラス(Vitrum)」から。英語の「vitreous」は「ガラスの」「透明な」という意味を持ちます。この言葉はポルトガルを通じて、日本には「ビードロ」として入ってきました。一般的なガラスの入れ物をそう呼ぶことはあまりなく、価値あるものを飾るにふさわしい収納をヴィトリーンとよびます。
そして、五角形にも隠された意味があります。
東洋では五行(水・木・火・土・金)を表し、終わることのない循環を描いており、邪気の入り込む隙をなくした魔除けの象徴。そして西洋では五芒星を象徴し、古代から崇められ、人という生命の象徴=健康の象徴とされ、やはり魔除けとして貴ばれてきた意匠。知恵と力の象徴として、古代ギリシャ・ピタゴラスの一派がシンボルマークとしたこともあったようです。その後中世ヨーロッパでも、六芒星とともに魔術の文様として広く使われてきました。
アメリカの国防総省が「ペンタゴン」とよばれる元となったのは、その五角形の建築物に在ることはあまりにも有名です。なぜ五角形かは都市伝説の様に諸説ありますが、知恵と力、そして魔除けの象徴である五角形であることに、なんらかの作為を感じる人々は多いことでしょう。
実は、このヴィトリーン・ボックスを手に入れたのはプラハ。
多くのアンティーク小物のなか、周囲の物とはあきらかに異なる輝きを纏っていました。
ひき込まれて眺めまわしていると、ハンチングをかぶった店主のおやじさんいわく・・・
「古いものだよ。19世紀。チェコではない、オーストリアのだね。いいものだから、まけないよ。」
そんなことを言っていたようです。
「言っていたよう」というのは、おやじさんが話していたのはチェコ語。当方はチェコ語は全く分からず、意思疎通に苦労していたところ、みかねた通りすがりの女性が通訳として入り、おやじさんの主張を理解することができました。
19世紀にフランスで流行したガラスの小箱は、隣国オーストリアにも波及し、やがてオーストリアでも作られるように。そして何らかの理由で、そのまたお隣のチェコにこのヴィトリーンは運ばれてきたのかもしれません。
現代日本では、なかなか懐中時計を愛用されるご仁は少ないかと思われます。
もちろん、本来の用途にお使いいただくのは大歓迎ですが、例えば大切なペンダントヘッドなどをディスプレイしてみてはいかがでしょう。
画像ではプラハのおやじさんに敬意を表し、チェコの名産、モルダバイトのペンダント・ヘッドをご参考までにディスプレイしてみました。1450万年前の隕石によって生まれた清冽な色をもつ結晶体は、五角形の透明な箱に仕舞われるとき、不思議な力を手に入れたようにみえてきます。
石がお好きなかたはお好みのパワーストーンを飾ってもよいかもしれません。
中欧を旅してきた知恵と力のペンタゴンに、あなたの大切なものを仕舞ってください。
◆Austria(Prague買付)
◆推定製造年代:c.1870~90年頃
◆素材:真鍮・ガラス・他
◆サイズ:幅約8.7 奥行き約4.5 高さ約12cm(内部プレート布張り部分 直径約3.8cm)
◆在庫数:1点のみ
【NOTE】
*五角形の懐中時計用ヴィトリーン・ボックスのみの販売です。画像の備品は付属しません。
*古いお品物ですので、多少の汚れや小傷、布の劣化などがみられます。詳細は画像にてご確認ください。
*脚は若干の歪みがみられます。
*背面下、ガラスの面取りの合わせ目にわずかに欠けがみられます。
*上記ご了承のうえ、お求めください。
アイテムのご購入はショップにてどうぞ。
こちらのバナーからご来店いただけます。
Todd Lowrey Antiques
by d+A