存在感に圧倒される、美しい箱。
平面的にはA3よりもひとまわり小さなサイズながら、ずっしりと持ち重りがする木の箱は、ただらなぬ存在感で見る者を魅了します。
いったいこれは、何なのでしょうか。
このような箱はライティング・スロープ/Writing Slope、もしくはライティング・ボックス/Writing Box、
ライティング・キャビネット/Writing Cabinet、ラップ・デスク/Lap Desk等と呼ばれるもの。
18世紀後半から19世紀にかけての時代、世界中へと進出した英国。
彼らは小さな箱に工夫を凝らし、旅先や戦いの遠征先でも携帯していればいつでも書き物ができるように様々な造りを施しました。
インク壺、ペン、そして紙。それらが効率的に収納され、しっかりと鍵をかければ誰にもみられない。ぱかり、と開けば、程よい傾斜がつけられたペン書きに最適なレザー面が現れ、船上でも、野戦地でも、すらすらとペンを運ぶことができたのです。
ライティング・スロープには様々なスタイルがありますが、基本的には贅沢な持ち物であったため、仕様は豪華。
使われている材はマホガニー、ローズウッド、そしてウォールナットなどがほとんどで、そこに違う色の木をはめ込む象嵌が施されていたり、金属象嵌のものなどもみられます。
さて、今回ご紹介するのは英国ヴィクトリア時代のライティング・スロープ。
構造体は大英帝国が南洋から手に入れた戦利品のひとつ、緑の黄金、マホガニー。
いまはもう手に入れることが難しいような目の詰まった美しいマホガニーが、内面を豪華に形作っています。
そして、外側の化粧は妙なる木、ウォールナット。
ヨーロッパで自生してきた豊穣の象徴でもあるウォールナットは、独特の杢目と飴色の深みのある艶で、箱の外観を高貴な印象に仕上げることに成功しています。
箱の周囲は真鍮で縁取られ、ウォールナットの杢目と最高のコントラストをみせています。
蓋の上には真鍮板がはめ込まれ、以下の文字がみられます。
Presented to
Mr.L.F.CHASE.
by the members of the Duplex
C.A.C.
as a mark of esteem for past Services
Feb.1890
ここから読み取れるのは、この箱は1890年2月にL.F.CHASE氏へ贈られたものだということ。
「the Duplex」「C.A.C.」はどこかのジェントルマンズクラブ、もしくはカントリークラブかとも思われますが、残念ながら特定することはできませんでした。
「as a mark of esteem for past Services」は、過去のサービス(貢献)に尊敬をこめて・・・ということかと思われます。
このような最高級のライティング・スロープを贈られたCHASE氏は、どれほど誇らしく、嬉しく思ったことでしょう。
そして、このライティング・スロープがもつ最大の特徴は「シークレット・ドロワー」があること。
文字通りの「秘密の引き出し」で、通常箱を開けてみただけでは、まったくその存在に気付くことはできません。
インク壺やペントレイの下部、隠された小部屋には小さな小さな引き出しがふたつ隠れていて、知っているものだけが開けることができます。
英国アンティークにはこのようなギミック(仕掛け)がまれに施されており、例えばキャビネットの幕板を押すとぱかりと外れ隠し空間があったり、テーブル天板を回すと天板下に隠し箱があったりすることがございます。
このシークレットドロワーもそんなもののひとつ。
とてもよくできた仕掛けに、当時の職人たちの知恵と技、そして遊び心に感心せずにはいられません。
・・CHASE氏はいったいなにを仕舞ったのでしょうか。
シークレットドロワーの開け方は、以下の動画からどうぞ。
あまりにも一瞬なので、目をこらしてみてください。
120年を超えた歴史をもつ、あまりにも美しいライティング・スロープは、妙なる材の力と緑の黄金をその内に秘め、人々の繋がり、職人の技、そして英国人の遊び心を輝く古艶でつつみこみ、泰然と佇んでいます。
ヴィクトリアンの紳士が得たであろう、素晴らしいものを所有する悦びと誇らしさを、ぜひ貴方も感じてください。
◆England
◆製造年代:1890年2月
◆素材:ウォールナット、マホガニー、真鍮、レザー、ガラス、他
◆サイズ:幅約40cm 奥行き約24.7cm 高さ約18cm
◆在庫数:1点のみ
【NOTE】
*とても良いコンディションですが、古いお品物ですので、多少の汚れや小傷などがみられます。
*施錠できる鍵が2点付属しています。ただし、鍵箱内のバネ等も古いため、多少引っ掛かりを感じるような操作感となっています。
*頻繁な施錠はおすすめできません。鍵はあくまでアクセサリーとしておたのしみいただくことをお勧めいたします。
*塗装は古くからの仕上げ、「ニス」ですので、熱や水に弱い塗装です。お手入れは基本乾拭き、年に一度程度ワックスをかけてください。
*底面のフェルトには若干の傷みがみられます。お時間をいただければ、新しいものにお張替えをいたします。特にご指定なき場合は、このままの出荷となります。
*画像の備品は付属しません。
*上記ご了承のうえ、お求めください。
アイテムのご購入はショップにてどうぞ。
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Todd Lowrey Antiques
by d+A