英国アンティーク、ルーカス社のサイクルランプ。
サイクル(自転車用)ランプ。
現在はほとんどがLEDを使用したランプになっているかと思いますが、少し前は前輪に負荷をかけて発電する「ダイナモ式ランプ」が一般的でした。点けると漕ぐのが大変なので、一生懸命ペダルを踏んだことを覚えています・・・。
ここで少し日本の自転車用ランプの歴史を調べてみました。
明治時代は基本的には「蝋燭/提灯」。ただ、危険なため夜間は自転車は走行禁止だった時期もあるようです。もちろん輸入のランプもありましたが、かなり高価だったため多くの人には手が出ない高級品でした。自転車の普及とともに、1923年に「砲弾型ランプ(電池式)」が発売。1933年、ナショナル製ダイナモ式ランプが発売。高価なため普及には時間がかかりましたが、第二次大戦を経て復興と共に一般的になりました。
今回は、そんな歴史を持つサイクルランプのご紹介です。
ずっしりとした重みをもち、丸いレンズがひと際存在感を放つ物体。レンズ上には以下の文字がみられます。
JOS LUCAS LTD
SILVER KING
BIRMINGHAM
これは英国ルーカス社の「SILVER KING」ブランドのサイクルランプです。
さて、少し長くなりますがルーカス社の歴史をご紹介いたします。
1860年代にバーミンガムで「Joseph Lucas/ジョゼフ・ルーカス(1834-1902)」がバケツやシャベル等金属をプレスした備品を販売するビジネスを開始したのが同社の始まり。1872年には息子のハリーが加わり、バーミンガムのリトルキングストリートにランプの店をオープンします。
当時需要が多かったパラフィンオイルや石油を燃やすランプに注力。店は後にグレートキングストリートに移転します。1875年には船舶用ランプの「Tom Bowling/トムボウリング」で特許を取得。
1878年には「ペニーファーシング/penny-farthing(前輪が巨大で後輪が小さい初期の自転車)」用自転車用ランプ「King of the Road」を製作。1880年には同モデルの特許を取得。1884年からこのモデルに取り付けられている「ライオンと松明(たいまつ)」はその後80年に渡り同社の広告イメージに使われることとなります。
1898年にはJoseph Lucas Ltd,となり、ワイパーやモーター、ランプ等自動車電気部品の製造を開始。1914年には「Morris Motors Limited/モーリス自動車」に電気機器を供給する契約を結び、成長を遂げます。第一次大戦を経て事業はさらに拡大。自動車向けのブレーキシステムやディーゼルシステム、航空宇宙産業向けの油圧アクチュエータや電子エンジン制御システムなどの製品に手を広げました。1926年に彼らは「Austin Motor Company/オースティン自動車」と独占契約を結びます。
1930年代には他社を買収しつつ大きくなり、トランジスタや半導体製造なども製造するようになりますが、やがて1996年には「North American Varity Corporation」と合併。「LucasVarity plc/ルーカスヴァリティ」となり、アメリカの資本が入ります。
1998年、経営陣は同社の本社と主要上場先を米国に移そうとしますが、株主や英国メディアからの批判を受け失敗。
その後経営は数度にわたり色々な会社へと渡りますが、2004年9月、英国に本拠を置く自動車用電気部品サプライヤーである「Elta Lighting Ltd.」が英国およびヨーロッパの製品に「Lucas」の名前とロゴを使用するライセンスを取得。現在でも「Lucas」ロゴのついた製品を販売しています。
参考サイト:Eltaオフィシャルサイト/LUCASのニュースより
https://eltaeurope.com/lucas-automotive-lighting-the-way-for-over-140-years/
大英帝国の最盛期ヴィクトリア時代に創業し、二度の大戦を乗り越えて成長しつつも、アメリカ資本に飲み込まれていくルーカス社の歴史は、世界の流れを象徴するような気がします。
ではランプ本体をよく見てみましょう。
正面のレンズはパカリと開くことが出来ます。また、ジュエルと呼ばれる側面のグリーンのガラスも、片側のみ開けることが出来ます。
上部をまるごと開けば、燈心部分が現れます。(現時点で芯やオイルの注ぎ口は固まっており、点火は出来ないと思います。)炎を反射する凹面鏡のリフレクターもついており、小さな炎を反射させ拡大させるように最大限の仕掛けが施されていることがわかります。
背面にはおそらく衝撃を吸収する役目を持つベルト状のものがついており、背後の金具を自転車本体に付けた別の金具に差し込んで使用するようになっています。
トップには当時のルーカス社のシンボル「ライオンと松明/King of the Road」が誇らしげに掲げられています。
オイル式のサイクルランプは19世紀末から第二次世界大戦が頃まで生産されましたが、このランプは恐らく1910-1920年代頃の製造と思われます。
手に持ち眺めて思うことは「点火したらかなり熱くなるのでは」ということ。炎の為に空気を入れ、熱を逃がすための構造はありますが、上の方は触れば火傷することは間違いないでしょう。そしてもしも転倒や接触などの事故でランプが破損してオイルが漏れれば、炎が広がることは目に見えるようです。
「これを点けて夜道を自転車で走っていたのか」と驚くとともに、約100年後となる現代の当たり前の生活が、当時の人にとっては魔法のように思えるのだろうな、と実感いたしました。
手に入れてから、ガラスを磨くくらいでほぼそのままのご紹介としております。実際にご使用を試みられることはお止めしませんが、どうか十分ご注意の上お取り扱いください。
安定して自立いたしますので、インダストリアルなオブジェとしてのディスプレイ用がおすすめ。丸いレンズを覗き込めば、凹面鏡に移った逆さまの風景と複雑な反射で、まるで万華鏡をみているような気持ちになります。
自転車好きな方へ。
そしてもちろん古い工業製品がお好きな方や、光学機器マニアの方へもおすすめのひとしな。(購買層が狭いような気もしますが)
英国が誇ったルーカス社の歴史の一頁「SILVER KING/銀の王」を是非お手元でご堪能ください。
◆England
◆Joseph Lucas Ltd.
◆推定製造年代:c.1910-1920年代頃
◆素材:金属、ガラス
◆サイズ:幅約9.1cm 奥行き約13.5cm 高さ約12.3cm
◆重量:581g
◆在庫数:1点のみ
【NOTE】
*古いお品物ですので、一部に小傷や汚れ、錆びや変色、塗装の剥げ、金具の傷み等がみられます。詳細は画像にてご確認ください。
*芯やオイルの注ぎ口は固まっており、現時点で点火は出来ないと思います。
*ご自身で手を入れて点火を試される場合はご注意の上お願いいたします。
*画像の備品は付属しません。
*上記ご了承の上、お求めください。
アイテムのご購入はショップにてどうぞ。
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Todd Lowrey Antiques
by d+A