17世紀、男性が剣を持たなくなった代わりに持ちはじめたといわれるステッキ。
剣のかわりにステッキを、盾のかわりに帽子を持った英国紳士は、武器であり装飾品であるそれらにどれほどの愛着を持っていたのでしょうか。
今回ご紹介するのは、その愛着のほどがわかる素晴らしいアンティークのステッキです。
目を惹く黒と銀の端正な姿。
グリップは大曲とはまた異なる微妙なカーヴを描いています。
まず、シャフトはエボナイズド仕上げ。
「エボナイズド」仕上げとは、英国やフランスのアンティーク家具などでもみられる黒い塗装仕上げのこと。
エボニーとは黒檀のことで、黒檀のように仕上げることをエボナイズドとよびます。
遥か東洋からやってきた黒檀の装飾品に驚嘆した、かつての富裕層やキャビネットメーカーが生み出した仕上げのひとつであり、
エボナイズド仕上げに黄金色のオルモルを合わせたり、セーブルの陶板をはめ込んだりしたキャビネットは、最高級品として英国やフランスの王侯貴族たちに愛されてきました。
微妙なカーヴを描くグリップは黒に近い色の水牛の角。
付け根あたりにわずかに琥珀色を帯びた深い色の角は、シルバーとも、木とも異なる有機的な手触りで、しっとりと馴染んでくれます。
グリップの先端にはシルバーのクラウンがついており、しっかりとエンドを引き締めているよう。
クラウン端にはホールマークが確認できます。
一番右端はかなりすり減ってはおりますが、ライオンパサントでしょう。
一番左端はチェスターのアセイオフィスのマーク。もともと市の紋章からきたデザインといわれています。
そして中央のデイトレターは大文字の「P」と思われます。
チェスターでこの字体の「P」のデイトレターが使われていたのは1898年。
つまり、このステッキは1898年にチェスターのアセイオフィスで認可を受けたスターリングシルバーを持つことがわかります。
他にメーカーズマークらしいアルファベットも確認できますが、メーカー名は特定できませんでした。
そして、このステッキのもうひとつの特徴。
漆黒のシャフトとグリップを繋ぐ部分に巻かれたシルバーのカラー。
そこには以下の文字が彫り込まれています。
GWLADYS
「GWLADYS」はウェールズ語の女性の名前。英語では「グラディス/Gladys」となります。
その名前で有名なのは「St.GWLADYS/聖グウェレディズ」でしょう。
5世紀の南ウェールズにあったといわれる国「ブライケイニオーグ/Brycheiniog」の伝説的な王「ブライチャン/Brychan(419-480)」の娘であった「グウェレディズ/GWLADYS」。
長女であった彼女は美しく成長したことから、隣国の「グウィンリュウミルウル/Gwynllyw」王が結婚を申し込む使者を送ってよこしました。
ブライチャン王がそれを追い返したところ、グウィンリュウミルウル王は300人の兵士とともにブライチャンを急襲。グウェレディズを連れ去ったといいます。
グウェレディズは夫によく仕え、子を産み、夫の父をキリスト教に改宗させるなどし、やがて死後は聖人として列せられました。(*諸説あります)
つまり、「グウェレディズ/GWLADYS」とはウェールズの伝説の王女であり、聖人の名前なのです。
そういえば、このステッキのシルバーのホールマークはチェスターのもの。
チェスターはイングランド北西部チェシャーの中心都市、ディー川沿い、ウェールズとの境に位置します。
ごくごくウェールズと近い、ということから、このステッキはウェールズの紳士の物だったのではないでしょうか。
伝説の王女に敬意を表したのか、はたまた彼の大切な人が、「グウェレディズ/GWLADYS」という名前だったのかもしれません。
いずれにしても、凝った仕様の大切なステッキに彫るほどの想いとはいかばかりだったのでしょうか。
120年余りの時を経て、今度は貴方の手元に。
伝説の王女の名を持つ美しき英国アンティークの佳品をお届けいたします。
◆England
◆Chester
◆推定製造年代:c.1898年
◆素材:木・角・スターリングシルバー・他
◆サイズ長さ約91.5cm 持ち手幅約11cm
◆重量:258g
◆在庫数:1点のみ
【NOTE】
*古いお品物ですので、一部に小傷や汚れ、変色がみられます。詳細は画像にてご確認ください。
*シャフトはずっしりと太めでしっかりとしています。
*グリップは現在のところしっかりとついており、カタつきや緩みはございません。
*石突部分は先端金属がすり減り、斜めになっています。滑り止めのゴムカバーをおつけしております。
*画像の備品は付属しません。
*上記ご了承の上、お求めください。
アイテムのご購入はショップにてどうぞ。
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Todd Lowrey Antiques
by d+A