英国アンティーク、木箱入り製図セット。
艶やかな木箱に納められた製図セットのご紹介です。
まずは艶めく木箱から見てみましょう。表の材は銘木マホガニー、蓋の「ヴェイカントカルトゥーシュ/Vacant Cartouche」と鍵回りの飾りはシックな真鍮製です。
蓋を開けば蓋裏は紫色のシルク張りで、中には製図セットがおさめられています。箱は2重底になっており、下には真鍮の分度器、黒檀と真鍮で出来た平行定規、そして説明書が入っています。
製図道具は多くが真鍮製、一部には銀色の部分もございますので、必要に応じて合金のものや混合のものがあると思います。凹み部分は全て埋まっており、英国買い付けそのままの状態でご紹介しております。
まず、二重底に納められていた分度器の説明書に、こんな名前をみつけました。
EYRE & SPOTTISWOOD LONDON
当初はWilliam Strahanウィリアム・ストラハンとCharles Eyreチャールズ・エアの合弁事業(Eyre & Strahan)でしたが、後にウィリアム・ストラハンの息子アンドリューの甥であるアンドリューとRobert Spottiswoode,ロバート・スポティスウッドが提携した後、エア&スポティスウッドとして知られるようになったとされています。
参考:ブリティッシュミュージアムのサイト
Eyre & Spottiswoode Ltdの頁
https://www.britishmuseum.org/collection/term/BIOG184767
長い歴史をもつ同社は、1767年から「キングスプリンター/King's Printer」として特許状をもち、公認版聖書および共通祈祷書を印刷、出版、輸入するほぼ独占的な権利を有していたほどの「特別な印刷業者」だったのです。
エア&スポティスウッドが製図道具を製作していた訳ではないと思いますが、老舗の由緒正しい同社が製作した説明書きを入れるほどに、クオリティの高い製図セットである、と言えるかと思います。
そして説明書の裏側には以下の名前がありました。
T.BROMLEY & SON, LTD.,
ARTISTS COLOURMEN,
DEALERS IN METHEMATICAL INSTRUMENTS,
BREADSHAWGATE & FOLD St. BOLTON,
この「T.BROMLEY & SON, LTD.,」の名前は箱の底面にも見ることができます。おそらくこの製図セットを販売していた、BOULTONにあった会社だと思われます。
「BOLTON/ボルトン」はイングランド北部、マンチェスター北の郊外にある町の名前。歴史あるマーケットタウンで産業革命のころには繊維産業で大いに発展した町です。
また、地図で見れば「BREADSHAWGAT/ブラッドショーゲート」も「FOLD St/フォールドストリート」も現存しており、ともに通りの名前です。ボルトン中心部を南北に走るブラッドショーゲート、そしてそこから直行して伸びる短い通りフォールドストリート。その角にはまだ古い建物が建っていて、1階は「YATES」というパブとなっています。きっとそのあたりで「T.BROMLEY & SON, LTD.,」は製図道具などを販売していたのでしょう。
「T.BROMLEY & SON, LTD.,」についての詳細記録は見つけることができませんでしたが、2011年の「BOULTON NEWS」のサイトにはこんな記事がありました。(少し略しています)
BRENDAN O'FARRELL 氏が語る・・・
ボルトンにフレデリック・ファラー・ブロムリーという男がおり、第一次大戦時に戦車部隊の少尉として活躍していた。
彼は「ザ・オールドハム」シャープルズの P.ブロムリーの長男であり、ブラッドショーゲートの T.ブロムリー&サン社、及びファインアートギャラリーの取締役だった。彼は公立学校部隊に入隊し、1915年に兵卒から現在の階級まで昇進した。フレッドは私の妻ジャニスの親戚で、1957年に亡くなった。もし誰かが彼を知っていたり、シャープルズFCについて聞いたことがあったり、あるいはゴルファーの中に彼と1、2ラウンドプレーした人がいたら、もっと詳しい情報や写真があればぜひ教えていただきたい。
THE BOLTON NEWS
https://www.theboltonnews.co.uk/news/8866233.sharples-fc-dunscar-golf-club/
恐らく昔のことを知りたい、語り合いたい、という人のための掲示板のような記事かと思います。このことから第一次大戦時(1912-1918)にはT.ブロムリー&サン社は事業を行っていたことがわかります。
「EYRE & SPOTTISWOOD LONDON」のこと、「T.BROMLEY & SON, LTD.,」のこと、そして全体の造りから、この製図セットはヴィクトリアン後半からエドワーディアンにかけて、1890-1910年代頃に作られたものかと推測いたします。
また、今回ご紹介するような黒檀と真鍮で出来た平行定規は「Parallel Naval Ruler」ともよばれます。「Naval」は「海軍」の意味で、海図を読むときに、このタイプの平行定規を使っていたことからの名前とされています。真鍮のコンパスは手を触れれば切れそうなほど(比喩です)エッジが立っており、使う者の気持ちを正すような威厳に満ちています。
なお、木箱の留め具部分、上蓋部分には補修跡がみられ、施錠できる鍵は付属しておりませんことを申し添えておきます。
最後に「T.BROMLEY & SON, LTD.,」の下にある「Artists Colourmen」について。
「Colourmen」は初めて見た単語でしたので、少々調べてみました。意味としては画家の画材を製造・供給したり、画家の作品を販売した人や会社のこと。
18世紀後半以降から使われだした言葉のようです。現代の画材屋と画廊を合わせたような感じといったところでしょうか。画家の色付けを助け、彼らの作品に彩を添える・・・そんな意味も込められているのかもしれないな、と思いました。
1箱の製図セットから広がる深い世界。
この製図セットが残してきた作品へと想いを馳せるとともに、18世紀からのキングスプリンターやマンチェスターのカラーメンのことももっと知りたくなってしまいます。
これから先は貴方のお手元で。
思い切りエッジが立った真鍮デバイダーの感触を楽しみつつ、アンティークの沼へ足を踏み入れてください。
◆England
◆推定製造年代:c.1890-1910年代頃
◆素材:木(マホガニー、黒檀)、紙、真鍮、他
◆箱外形サイズ:幅約21cm 奥行き約12.8cm 高さ約4.7cm
◆総重量:646g
◆在庫数:1セットのみ
【NOTE】
*古いお品物ですので、一部に小傷や汚れ、変色等がみられます。
*箱底面にはインクのトビがみられます。詳細は画像にてご確認ください。
*製図道具は英国買付そのままの状態です。パーフェクトなオリジナルであるかどうかは不明です。
*木箱の留め具には補修跡がみられます。
*鍵はございません。
*蓋は自立しません。
*画像の備品は付属しません。
*上記ご了承の上、お求めください。
アイテムのご購入はショップにてどうぞ。
こちらのバナーからご来店いただけます。
Todd Lowrey Antiques
by d+A