描き込まれた達者な線と巧みな構図に目を惹かれ、手にいれたアンティーク・プリント。
詳細を調べてみると、そこにはふたつの作者の名前がありました。
まず、画面中央下には以下の文字。
OLD EAST INDIA WHARF LONDON BRIDGE
BY MONAMY B1670 D1749 S.K.M No.644
そして、右下には以下の文字。
Wm Rawson FECIT 1873
「MONAMY」とは、17世紀後半から18世紀に活躍した、ロンドン出身の海洋画家、Peter Monamy/ピーター・モナミーのこと。世代としてはイングランド・ロマン主義の大家、ターナーと同時期の画家で、帆船や港の風景など、海にまつわる絵画を得意としていた画家です。
彼による「OLD EAST INDIA WHARF LONDON BRIDGE」という絵画があります。
OLD EAST INDIA WHARF LONDON BRIDGE BY Peter Monamy(部分) |
そして、Wm Rawsonとは、19世紀から20世紀初めころに作品を残している「William (Willie) Rawson/ウィリアム・ラーソンという作家のことだと思われます。それほど有名ではなかったらしく、記録はあまり残ってはいません。
また、「FECIT」にはラテン語で「つくる」の意味があります。
このプリントとピーター・モナミの絵をよく比べれば、右側の家や階段、張り出した支柱などがそっくり同じであることに気づきます。
以上のことから、おそらくこの作品は ウィリアム・ラーソンが、ピーター・モナミーの絵「OLD EAST INDIA WHARF LONDON BRIDGE」をもとに一部のモチーフをとりだし、自分なりに描き起こしたものなのではないかと思われます。
製作年は1873年。
「S.K.M」はピーター・モナミーの絵を所有し、さらにラーソンの版画を制作した画商のことなのではないでしょうか。
モチーフは似ていても、ピーター・モナミーの桟橋の雑踏が手にとるように伝わってくる躍動感ある絵画にくらべ、ラーソンの版画は非常に寡黙。モノクロで人物もいない線描だから・・・だけでは片付けられないような、不思議な静謐感が漂います。
ちなみにピーター・モナミーの生没年は1681-1749となっており、版画に記されている「B1670 D1749」と若干ずれておりますが、昔のことで正確な資料がなかったためなのではないかと思われます。
また、フレームはそれほど古い物ではありませんので、後年にフレーミングされたものとでしょう。
150年近く前の、祖国の大家へのオマージュをこめて、作品を仕上げたラーソン。
そこからまた150年近くを経て、その作品を鑑賞する私たち。
受け継がれていく美への想いは、どこにいくのでしょうか。
静謐なモノクロームの画面をみるとき、そんなことを考えさせられる趣き深いひとしなです。
◆England
◆推定製造年代:版画c.1873年 フレーム1930-50年代頃
◆素材:紙
◆フレーム外寸サイズ:幅約22.1cm 奥行き約1.2cm 高さ約27.3cm
◆重量:370g
◆在庫数:1点のみ
【NOTE】
*古いお品物ですので、一部に小傷や汚れ、変色、材のカケなどがみられます。詳細は画像にてご確認ください。
*フレーミングはやや古い手法で行われています。一度外すと、もとに戻らない可能性がございます。
*画像の備品は付属しません。
*上記ご了承の上、お求めください。
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Todd Lowrey Antiques
by d+A