英国アンティーク、パイプボウル。
ブライアーパイプをくわえて思索の沼に沈むシャーロックホームズ。
パイプをくわえた自画像を何枚も描いたフィンセント・ファン・ゴッホ。
蓋付のメアシャムパイプを愛用していた文豪チャールズ・ディケンズ。
時にパイプはその人物を雄弁に語るように思います。
少しだけパイプについての基礎知識を調べてみました。
パイプの素材にはさまざまなものがありますが、ヨーロッパで古くから使用されていたのが、粘土を素焼きにした「クレー/clay」パイプと呼ばれるもの。アメリカ大陸の先住民のあいだで使われていたものですが、16世紀の中ごろに喫煙の風習とともにヨーロッパに伝わったとされています。
次に登場したのは「メアシャム/meerschaum」パイプ。メアシャムとは海泡石のことで主にトルコを中心とした地中海沿岸地域で採取されます。18世紀前半、オーストリア=ハンガリー帝国の貴族がトルコを旅行中にメアシャムの塊を見つけ、それを使ってパイプを作るよう命じたことが、メアシャムを素材としたパイプが作られるようになった始まりといわれています。
別名「パイプの女王」とも呼ばれ、やわらかく、彫刻を施しやすいため、凝った意匠のものが多く作られました。未使用の状態のメアシャムは白に近い象牙色をしていますが、使っていくにつれて煙草の成分により色が変化し、黄色から飴色へと変わっていくさまが楽しめます。個体ごとに異なる色合い、凝った彫刻、そして壊れやすいゆえの貴重さから、パイプ愛好家からは垂涎の的となっているようです。
そして19世紀には「ブライヤー/briar」パイプが登場します。ブライヤーとはツツジ科エリカ属の常緑低木、またはその根瘤のこと。それを素材として使用したもので、軽くて丈夫で耐火性にすぐれ、杢目も楽しみことができ、吸い心地も良いことから広く普及しました。
部位の名称としてはパイプの先端部位の丸い部分はボウル、そこから伸びた部分をステム(シャンク)、取り外しができて口で加える部分の筒をマウスピースもしくはステムとよびます。
前段が長くなりました。
今回ご紹介するのはそのボウルの部分。
手に入れたのは英国のアンティークフェア。アクセサリーを主とした小さなストールは、品の良いレディが営んでいました。そこで見つけたのが、手と果物が巧みに彫り込まれたパイプボウル。
まずは精巧で美しい造りに魅了され、手に取ってみればなんだか穴が開いている・・・と不思議がっていると、パイプの一部よ、とレディが教えてくれました。素材はなんですか?と聞けば、そのレディは困ったように「古いものなんだけど・・・なにかしらねえ」と他人事のようにつぶやいています。そこに隣のストールから登場したのがもう少し年上のレディ。「それはクレイか、メアシャムね。ヴィクトリアンくらいかしら」と助け船を出してくれました。お友達だったのでしょうか。
どちらにしても造形の見事さにすっかりやられておりましたので、そのまま買い求め、丁寧に包んで持ち帰ってまいりました。
繊細なレースの袖口から伸びるすんなりとした左手。爪先まで再現された手が掴むのは、小さめなかぼちゃと山葡萄の実のように見えます。
吸い口に近いほうが濃い飴色、そして遠いほうがくすんだ象牙色のようでほどよい艶があり、精緻な彫りは芸術作品のよう。この艶の感じ、色の変わり方などなどから、私としてはメアシャムなのではないかと思います。
かつてどんな紳士がこのパイプボウルを使っていたのでしょう。愛や誓いの象徴である左手が、豊穣の象徴、果物を掴むモチーフにどんな意味を見出していたのでしょうか。変色の具合から、長年使い込み、ずっと愛用してきたことは間違いないでしょう。
芸術作品としての彫刻、愛されてきた証としての色艶。どちらも備えた、今にも動き出しそうで決して動かない小さな左手は、100年以上経った今だからこその存在感を放っています。
歴史と芸術を愛する方のもとにお届けしたい、英国アンティークの傑作小品です。
◆England
◆推定製造年代:c.19世紀後半
◆素材:メアシャムの可能性
◆サイズ:約6.8×4×5.5cm
◆重量:32g
◆在庫数:1点のみ
【NOTE】
*古いお品物ですので、一部に小傷や汚れ、変色などがみられます。
*細かな欠けはあるようですが、大きな欠損は確認できません。
*吸い口とボウルはかろうじてつながっています。
*ボウルだけのパーツです。パイプとしてご使用になるにはご自身で他のパーツを取り付ける必要があります。
*用途として自立するように出来てはいませんが、注意深く立てれば写真のように自立します。
*詳細は画像にてご確認ください。
*画像の備品は付属しません。
*上記ご了承の上、お求めください。
アイテムのご購入はショップにてどうぞ。
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Todd Lowrey Antiques
by d+A