アンティーク屋にとって、愉しみであり苦行でもある現地買い付け。
買い付けの時には、様々なフェアやアンティークショップ、アンティークセンターを組み合わせてスケジュールを組みます。
そのなかでも、必ず訪れるはずせない場所がいくつかございます。
名前は秘密ですが、英国中部にある大きなアンティークセンターもそのひとつ。
そのアンティークセンターの二階、選りすぐりの品物が並べられているガラスケースに中でみつけたのが、この4枚セットの石版画です。
英国らしい雰囲気の石版画に、ちょっと渋めの金彩のフレーム。
小さなサイズで4枚揃いが可愛らしく、即決で手に入れてしまいました。
このようなモチーフは「Topography/トポグラフィ」といいます。
正確な日本語訳は難しいのですが、もともとは地形図のことであり、より地形を説明できる名所絵・・・といったところかと思います。
とりあえずこの場では「名所絵」とさせていただきます。
そして石版画はもともとモノクロですが、今回のお品物はそれに1点づつ手彩色で色をつけてあり、その場所の雰囲気がいきいきと伝わってくるようです。
それでは、ひとつづつご説明いたしましょう。
①田園風景の中にそびえたつ岩山。絵の下には以下の文字がみられます。
Rock & Co London No.2772
22 Aug 1860
Matlock High Tor Derbyshire
まず、「Rock & Co」とはWilliam Frederick Rock（1801-1890）によって作られた出版社のこと。
主としてトポグラフィ（名所絵）、地図、カードや文房具類を作っていたようです。
「No.2772」はおそらくこの版画の製造番号、「22 Aug 1860」は発行年月日でしょう。
「Matlock High Tor Derbyshire」とは、ダービーシャーにあるマットロックという町にある岩山のこと。
英国においては「イングランドのスイス」と呼ばれる景勝地です。
この版画とそっくり同じものが、英国V&A美術館にコレクションされています。
よろしければご参考までにご覧ください。（彩色はされておりません）
V&A Mattlock High Tor, Derbyshire の頁（英語版）
http://collections.vam.ac.uk/item/O586535/mattlock-high-tor-derbyshire-print-rock-co/
②岩山や山を背景にした街並みと女性たち。絵の下には以下の文字がみられます。
Rock & Co London No.4451
30 Jan 1862
Matlock
出版社名、製造番号、発行年月日は①と同様に解釈してよいと思います。
タイトルは「マットロック」であり、前述の町と同様。
恐らく街中の風景を描いたものでしょう。
③山の麓を走る蒸気機関車。手前には馬車が走り、ヴィクトリア中期らしい交通の様子が描かれています。
絵の下には以下の文字がみられます。
Rock & Co London No.4466
20 Feb 1862
High Tor Railway Station Matlock
出版社名、製造番号、発行年月日は①②と同様に解釈してよいと思います。
タイトルは「High Tor Railway Station/岩山鉄道(?)駅、マットロック」となり、マットロックには岩山の名前をつけた駅があったことがわかります。
乗合馬車、二人乗りの馬車、そしてガス灯。保養地としてかなり発展しているのがわかります。
④岩山と細かな街並みが描かれ、散歩するカップルもみられます。
絵の下には以下の文字がみられます。
Pub. by Bemrose & Son Derby Matlock
Eng. by Newman & Co. 48 Watling St. London
Matlock Bath from the Old Bath Hotel Gardens
さて、ここで異なる会社が出てきました。
「Bemrose & Son」については代表者名は定かではありませんが、少なくても1870年代にはDerbyで出版業を営んでいたという記録が残っています。
「Newman & Co.」は、John Newmanによってロンドンで営まれていた会社であると思われます。
風景はマトロック・バスとオールドバスホテルの庭園を描いたもの。
この場合のバス、とは温泉のこと。実はマトロックには温泉があり、そのためにより景勝地・保養地として昔から人気があるようです。
現在はオールドバスホテルはすでになく、ニューバスホテルが「New Bath Hotel and Spa」として営業を続けています。
出版社は異なりますが、前述の3枚と同じくマトロックを題材とした版画は、雰囲気はそっくりでシリーズとしては何の違和感もありません。
描き手も同じなのかもしれません。
以上の4枚となります。
1枚のみ発行年月日の記載がありませんが、他と同じ1860年、もしくは1870年代と推測いたします。
当時はモノクロの版画で発売され、後に気に入った人もしくは事業者が彩色を施し、フレーミングをしたと思われます。
全てがマットロックを描いていることから、その地に由来がある人のお宅を飾っていたのではないでしょうか。
1860年代といえば写真は発明されていたものの、まだまだ珍しく、印刷物にはまだ遠い時代。
新聞には写真ではなく版画の挿絵が一般的でした。
このような名所絵は、行ったことのない場所を説明するのにうってつけだったのです。
時代を語る、4枚揃いのトポグラフィ。
並べて掛ければちょっとしたギャラリーのように演出できますし、もちろん1枚づつかけても素敵。
はるかヴィクトリアンの景勝地へ、心だけでも出かけてみるのはいかがでしょうか。
◆England
◆推定製造年代:プリントc.1860-1870年代頃/フレーミングc.1930年代頃
◆素材：紙・ガラス・木・他
◆サイズ（フレーム外寸）：幅約16.6cm 高さ約13.9cm 厚み約1.4cm+金具 /1枚あたり
◆重量:193～196g/1枚あたり
◆在庫数：1セットのみ（4枚で1セット）
【NOTE】
＊古いお品物ですので、プリントには変色や汚れ、何かの跡が、フレームには塗装の剥がれ等がみられます。詳細は画像にてご確認ください。
＊掛け紐は英国買い付け時のままです。現在のところ問題なく掛けることが出来ます。
＊画像の備品は付属しません。
＊上記ご了承の上、お求めください。
アイテムのご購入はショップにてどうぞ。
こちらのバナーからご来店いただけます。
Todd Lowrey Antiques
by d＋A
