英国アンティーク、拡大鏡付ケースに収められた豆本辞書。
豆本。
英語では「Miniature Book」とよばれ、文字通り小さな豆粒のような本のことをいいます。
豆本とよばれることへの厳密な決まりはありませんが、ヨーロッパではおおむね3インチ(7.62cm)以下のものをそう呼び、16世紀頃には聖書を中心に豆本が盛んに作られたようです。小さな文字をきちんと印刷する技術、それに対応する紙の開発、そして製本技術と、豆本には様々な技術がつまっており、各出版社がしのぎを削るアイテムだったことは想像に難くありません。
さて、今回ご紹介するのは、そのなかでも凝ったケース付きの豆本です。
金属素材の丸みを帯びたケースには、中央に丸い拡大鏡が仕込まれています。ケース上部には環がついており、そこに紐やリボンなどを通すことが出来るようになっています。ケースをパカリと開ければ、中から赤い革表紙の豆本が現れます。大きさはわずか1.8×2.7cmほど。当店が取り扱った中でも抜群の小ささとなります。
表紙には金の箔押しで以下の文字。
ENGLISH
DICTIONARY
表紙を開けば、中表紙にはイングランドの文学者「Samuel Johnson/サミュエル・ジョンソン」の肖像と、以下のタイトルをみることができます。
The smallest
English Dictionary
in the World
Glasgow
David Bryce and Son,
まず、18世紀英国の著名な文学者であるサミュエル・ジョンソン(1709-1784)は「文壇の大御所」とよばれ、1755年に「英語辞典」2巻完成させていることから、この辞典も彼の英語辞典を元としていると思われます。
そして、David Bryce and Sonは、スコットランド・グラスゴーにあった豆本を製作していた会社のこと。創業者である「David Bryce/デイビッド・ブライス (1845-1923) 」は世界で最も多作で成功した豆本製作者の一人とされています。
17歳で父親の出版社に入り、1870年に父親が亡くなると独立。彼は「photolithography /フォトリソグラフィー (電気メッキを使用した写真縮小の一種) 」という最新技術を用いて大きなサイズのものをごく小さなサイズに縮小させ、印刷会社とのつながりも強く、テキストの明瞭さと読みやすさを実現したとされます。40を超える豆本を出版し、ビジネス的に成功しグラスゴーのビジネス界で著名な人物となりました。1900年には、ヨットを所有し名門ロイヤルクライド・ヨットクラブの会員となったほどでした。ただ、会社としては1913年頃に財政難となり、他社に売却されることとなりました。
参考:National Libraly Scotland David Bryceの頁
https://www.nls.uk/exhibitions/miniature-books/david-bryce/
また、裏表紙には「PEARS」のロゴがみられます。
「PEARS/ペアーズ」とは、1807年創業「世界で一番古いブランド」と言われる石鹸のこと。創業者はコーンウォールに生まれ、ロンドンのソーホーで床屋を営んでいた「アンドリュー・ペアーズ/Andrew Pears」。彼はグリセリン・天然オイルを使用し、泡立ち良く肌に優しい上質の石鹸を上流階級向けに開発、販売。万国博覧会に出品しメダルをとったり、広告に「ジョン・エヴァレット・ミレイ/John Everett Millai」の絵画を使用したり当時では珍しくブランディング戦略に力を入れ、成功したといいます。アメリカに大きな工場をもつなど大いに発展しました。
現在も同名の石鹸は販売されていますが、インドのユニリーバ社が株式を保有し、製造はインドであるため、昔とは違う、と思う人も多いようです。おそらくこの豆本辞書は、ペアーズのノベルティの一種であった可能性が高いと思われます。
実はこの豆本辞典は、いろいろなタイプで流通していたようです。
「ENGLISH DICTIONARY」のタイトルの前に「Cole's」や「BRYOE'S」などがつく場合もあり、ケースの模様も異なることがあります。裏表紙の「PEARS」の文字もあったりなかったりします。発行年は1890年代後半から1900年頃までとされており、おそらく再版されたり、様々なルートで販売されていたのではないでしょうか。
ただ、どれもが「David Bryce and Son」の豆本であり、当時他社がまねすることが出来ない技術であったことは間違いないようです。
ケースの拡大鏡は、ケースの外からタイトルが見えるようになっていると同時に、本文を読む時に使うことも可能。正直、あまりにも小さすぎて、文字の細かさもさることながら、読むときに頁を開いておくことがなかなか難しいのですが、そんな使いにくさと引き換えにした小ささへの挑戦を、ひしひしと感じる小ささとなっております。
19世紀スコットランドで作られた、極小の豆本。
誇り高く「世界で最も小さな英語辞典」と銘打った希少な1冊を、是非お手元でご鑑賞ください。
◆England
◆David Bryce and Son
◆推定製造年代:c.1890-1900年頃
◆素材:金属・ガラス・紙
◆ケースサイズ:幅約3cm 高さ約3.6cm(上部環含むと高さ約4.2cm) 厚み約1cm
◆豆本サイズ:約1.8×2.7cm 厚み約0.7cm
◆在庫数:1点のみ
◆総重量:13g
【NOTE】
*古いお品物ですので、一部に小傷や汚れ、錆びや変色、歪み等がみられます。
*ケースの合わせ目は若干歪みがみられますが開閉は可能です。
*閉める時はパチン、と安定して閉まります。
*詳細は画像にてご確認ください。
*画像の備品は付属しません。
*上記ご了承の上、お求めください。
アイテムのご購入はショップにてどうぞ。
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Todd Lowrey Antiques
by d+A