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Friday

ギニー、シリング、そしてソブリン/ Antique Double Turn Folding Sovereign Scale by Stephen Houghton & Son

 英国アンティーク、ソブリン・スケール。























とても興味深い小さな秤のご紹介です。


長さ13cmほどのマホガニーの直方体。そっけないほどのシンプルさの中にも、蝶番あたりにはなみなみならぬ精度が感じられます。注意深く蓋を開けば、真鍮の鈍い金色をした構造物がゆらりと立ち上がり、秤としての全貌をみせてくれます。


これは通称「Sovereign Scale/ソブリン・スケール」と呼ばれるもの。「Folding Gold Balance/フォールディング・ゴールド・バランス」や「Guinea Balance/ギニー・バランス」とも呼ばれ、つまりは折りたたみ式の金貨用秤のことです。



今回ご紹介する秤の内部には使い方とともに、測ることができる5つの金貨が表示されています。



Guinea/ギニー

Half Guinea/ハーフギニー

7 Shillings piece/7シリング

Sovereign/ソブリン

Half Sovereign/ハーフソブリン





さて、この5つの金貨は英国においていつごろから流通したのでしょうか。




・1663年 ギニー金貨 鋳造開始 


ギニーという名前はギニアで産出された金を用い鋳造されたことに由来します。何種類もあった金貨を統一する形で当時の造幣局長官アイザック・ニュートン卿の主導により設定されました。1816年には(新しい)ソブリン金貨へと変わりますが、その後しばらくは名目単位として使われていました。



・1669年 ハーフギニー金貨 鋳造開始


 

・1797年 7シリング金貨 鋳造開始 

 

銀貨不足による不足を補うため、そしてイングランド銀行の配当支払いを補助するために、1797年から1813年の間のみ鋳造されました。



・1817年 (新しい)ソブリン金貨 ハーフソブリン金貨 鋳造開始  


1816年の貨幣法により新しい本位金貨が制定され、これを(新しい)ソブリンとして1817年から鋳造されました。鋳造開始は1817年。もともとのソブリン金貨は1489年ヘンリー7世の時代に発行された量目240グレインの金貨(1604年を最後に鋳造打ち切り)であるため、一般的に1817年からのソブリン金貨は(new/新しい)をつけて呼ぶことが多いです。






また、木箱に貼られた文言には、以下の名前が確認できます。



Stephen Houghton & Son, Makers, Ormskirk

Successors to A. Wilkinson



これにより、メーカーはイングランド、ランカシャーの「Ormskirk/オームズカーク」にあった「Stephen Houghton & Son/スティーブン・ホートン & ソン社」となります。そして「Successors」は「後継」の意味ですので「A. Wilkinsonの後継者」という意味となります。

 



つまり、もともとこのタイプの秤を発明したのは「Anthony Wilkinson/アンソニー・ウィルキンソン」。はっきりとした生没年は不明ですが、1787年にはオームズカークにおいてゴールドバランス職人として登録されていた記録があるようです。1798年初頭には、1797年11月に導入された新しい7シリング金貨を測るためにダブル ターンの折りたたみ式ゴールドバランスを開発します。


彼の死後、スティーブン・ホートン & ソン社が1801年に設立され、ウィルキンソンのゴールドバランスの仕組みを受け継ぐ形で生産を開始しました。1817年にはソブリン金貨とハーフソブリン金貨に対応するために若干の改良が加えられました。

 

同社は1828年まで時計メーカーとゴールドバランス・メーカーの両方を名乗っていましたが、その後は需要の高まりから秤製造に特化していったと考えられます。


スティーブン・ホートンは1839年に亡くなり、息子のジェームズが事業を継承。事業はその後も順調で、1853年にリバプールに移転し、1860年代後半まで営業を続けたようです。





以上のことから、今回ご紹介するゴールドバランスの推定製造年代はソブリン金貨が発行された1817年から、スティーブン・ホートン & ソン社がリバプールに移転するまでの1853年までの間と考えられます。



1817年以降ギニー、ハーフギニーはソブリンに取って変わったとされていますが、150年以上使われてきた単位がすぐに人々の頭から消えるわけもなく、まだまだ金貨も流通していたことでしょう。そしてわずかな期間作られた小さな7シリング金貨も流通し、新しいソブリン、ハーフソブリンと合わせて5つの金貨が市場に流れており、これらをきちんと管理するために、このような携帯秤は商売人にとっては非常に必要とされたものであったことは想像に難くありません。




今回のお品物とほぼ同じと思われるものが、英国サイエンス・ミュージアム・グループのサイトに掲載されておりましたので、よろしければご覧ください。


Wilkinson folding Guinea balance (steelyard type) の頁

https://collection.sciencemuseumgroup.org.uk/objects/co58011/wilkinson-folding-guinea-balance-steelyard-type




なお、当店ではソブリン金貨鋳造にあわせてつくられたものであることから「ソブリン・スケール」と表記させていただいております。



余談ではありますが、英国の馴染みのディーラーとアンティークフェアで話していた時に、「ソブリン・スケールを手に入れたんだけど、その頃のソブリン金貨を実際に測ってみたいんですよね。扱っていますか?もしくはこのあたりで売っていますか?」すると彼は茫然とした顔で引き気味に「そんなのこの辺に売っているわけはない。1000ポンド以上するよ」とつぶやきました・・・。



そんなことで、実際に金貨を測ってみることはできませんでした。本体に組み込まれた可動式のパーツ、そして支柱にはめ込まれたスライドパーツを駆使して5つの金貨の重さを測定すると思われますが、申し訳ございませんが詳細のご説明ができるまでには至っておりませんことをどうかご了承ください。



また、箱から立ち上がる様子を動画としましたのでよろしければご覧ください。






ギニー、シリング、そしてソブリン。


通貨の歴史は国の経済の歴史でもあり、既に一般的には使われなくなった英国の通貨単位は、時に小説や映画などに登場し、今とは明らかに違う時代を想起させます。


その時代へとつながる確かな手触りとともに、精緻を極めたアナログなメカニックを堪能できる英国アンティークの傑作小品を是非お手元でご堪能ください。





◆England

◆推定製造年代:c.1817-1853年頃

◆素材:真鍮、木(マホガニー)、紙

◆サイズ:幅約2.5cm 長さ約13.5cm 厚み約1.6cm

◆サイズ(開いたとき)幅約2.5cm 長さ約26.5cm 高さ約7.3cm

◆重量:84g

◆在庫数:1点のみ



【NOTE】

*古いお品物ですので、一部に小傷や汚れ、錆びや変色等がみられます。

*閉めるときはパチンと確実に閉まりますが、開けるときはややきついです。金具を押しつつ、もう片方の手で蓋の隙間から開けるようにしてください。動画は少し開けた状態から撮影しています。

*詳細は画像にてご確認ください。

*画像の備品は付属しません。

*上記ご了承の上、お求めください。 





アイテムのご購入はショップにてどうぞ。

こちらのバナーからご来店いただけます。




Todd Lowrey Antiques

by d+A