ドイツアンティーク、郵便量り。
印象的な赤い台座を持つ小ぶりなスケール。
レタースケール(ポスタルスケール)は様々なデザインのものがありますが、インダストリアル的な要素が強い物が多いため、この赤はなかなか珍しいかと思います。
よくみれば、支柱には以下の文字が刻印されています。
JMAZ
これは「Jakob Maul in Zell」の略。
さて、ここから少し長い説明になります。
まず、1874年にドイツ人の Philipp Jakob Maul/フィリップ・ヤコブ・モール が、ドイツ最大の港町であるハンブルクでスケールとバロメータの会社、「PH.J.Maul社」を設立。(ドイツ語の「J」は、英語の「Y」のように発音するので、Jakob は、ヤコブと表現します。)
ドイツの聖職者であり技術者の Philipp Matthaus Hahn/フィリップ・マテウス・ハーン が、18世紀に開発した Neigungswaage/傾斜スケール の基礎となる原理を、フィリップ・ヤコブ・モールが、工業規模でレタースケールとして最初に制作し、世界中に輸出した第一人者であったため、彼は「レタースケールの父」と言われるようなります。PH.J.Maul は、1909年にレタースケールを含む多数の特許を申請。
その一つである、平らではない場所や傾斜した地面でもエラーなく正確な重さが軽量できる、「自己バランス振り子」のメカニズムは、当時のレタースケールのスタンダードとなり、様々なサイズとデザインのスケールに応用され、振り子の機構がハウジングに組み込まれたタイプなど、多くのモデルが製造されました。
1922年に、創業者のフィリップ・ヤコブ・モールが他界後は長男、次に、次男の Otto Maul/オットー・モールが引き継ぎました。オットー・モールの死後(1987年)、1989年、115年続いた会社は幕を閉じることとなりますが、会社の伝統は、ドイツ中部のヘッセン州に拠点を置く Jakob Maul GmbH/ヤコブ・モール社によって今日も続けられています。
同じ名前ばかりで混乱しますが、Jakob Maul GmbH の創業者である Jakob Maul/ヤコブ・モールは、フィリップ・ヤコブ・モールの甥。
もともとは叔父の PH.J.Maul の工場で学び、いつか叔父の会社を引き継ぐことを期待していましたが、叔父が子供を授かったことから、結果的に会社を去ることとなり、1912年に、ヤコブ・モール社を設立、1931年、同社でもオフィス事務用品に加えてレタースケールの製造を始め、ヤコブ・モールの死後、1970年になって PH.J.Maul の生産を引き継ぐこととなります。
前述の「Jakob Maul in Zell」とは、「Zell im Odenwald/ツェル イム オーデンヴァルト(ヘッセン州の町名)」の「Jakob Maul/ヤコブ・モール」のことであり、1912年に設立された甥の会社の製品である、ということになります。
機構としては振り子の重りで測ることに加え、調整は根元のネジで全体を傾けることで行うしくみとなっています。
オリジナルのヤコブ・モールの「自己バランス振り子」のメカニズムを踏襲しつつ発展させたような機構は、デザインも美しく、完成度の高い仕上がりとなっています。
また、ネジに彫られている「D.R.P.」はドイツ語「Deutsches Reichtspatent」の略で、「ドイツ帝国特許」のこと。19世紀から1945年まで使われていた言葉となります。
さりげない意匠に工夫がみられる琺瑯の目盛りも、古い物好きにはたまらないのではないでしょうか。
おせばふらりと振り子が動くスケールは机上のまたとないエンターテインメント。
機能性を追求した構造の美しさと共に、台座の赤と針先の赤がよく呼応し、粋なカラーリングが全体をよく引き立てています。
背後にあるドイツのレタースケールの歴史と共に、お愉しみください。
◆Germany
◆推定製造年代:c.1930年代頃
◆素材:金属、琺瑯
◆サイズ:幅約10.7cm 奥行き約7.1cm 高さ約15.5cm
◆重量:202g
◆在庫数:1点のみ
【NOTE】
*古いお品物ですので、一部に小傷や汚れ、変色、塗装の剥がれ等がみられます。詳細は画像にてご確認ください。
*50gの重りを測った時はほぼ合いましたが、古い測りですので精密な数値は保証できません。
*画像の備品は付属しません。
*上記ご了承の上、お求めください。
アイテムのご購入はショップにてどうぞ。
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Todd Lowrey Antiques
by d+A