英国アンティーク、スタンプボックス。
翼を持つ金色の天使が印象的な小さな箱。
蓋を開けると最大の特徴である傾斜の存在に気づきます。
そう、この箱は切手専用の「スタンプボックス/Stamp Box」。
スタンプボックスの歴史は古く、1840年5月1日、英国で世界初の接着剤切手である「ペニー・ブラック」が発行され、それから3年以内にスイスとブラジル、米国では1847年、そして1860年までに世界90ヶ国で郵便切手が導入され、その流れと共にスタンプボックスも作られるようになりました。
当時、手紙を送ることは特別であったため、切手は高価で、それを保持するために特別な箱やケースが作られました。最初は木や革で作られていましたが、時間が経つにつれて真鍮、象牙、シルバー、さらにはゴールドも用いられ、彫刻、象眼、エッチング、釉薬などで装飾も施されました。
ヴィクトリア時代後期からエドワード時代には、切手を仕舞う箱なしで紳士や淑女のデスクは完成しないと言われ、最も手の込んだデスクには、引き出しや棚、仕切りなどが豊富に備わり、スタンプボックスは、レターラックやブロッター、インク壺&ペンホルダーなどと一緒に、精巧なデスクセットの一部でした。
緊急時に利用可能なスタンプを数枚持つ大きさの小さな切手箱として、スタンプケースも登場。
一部はシルバーなどの貴金属で非常に精巧に作られ、かつ装飾も施されていたので、ウォッチチェーンやネックレスチェーンから吊り下げるようなジュエリーアイテムでした。
今回のスタンプボックスは、ちょっと珍しいオリーブが材料です。
オリーブの木は主として地中海沿岸やアフリカに自生し、木質は、耐朽性に優れ、重硬で肌目は緻密。長く齢を重ねるオリーブの年輪は、複雑に入り組み、他の木材には見られないユニークな模様を描くものをみることができます。
固く油分が多いため加工は困難を伴いますが、仕上げは素晴らしく、明るい絹のような輝きと深く刻まれた印象的な杢目をもちます。
また、オリーブの木は神と人類の間の平和のしるしとされるなど、宗教的な意味を持つ、神聖な「生命の木」とも言われています。
英国においてオリーブの木の細工物はそれほど多くはありませんが、箱などの小物や家具の象嵌細工の一部等に使われてきました。
そんなオリーブで作られた小箱の蓋に、はりつけられた金色の天使。翼を持つぽっちゃりした裸の男の子は、プット/Putto にも見えます。
単体ではプット、複数になるとプッティ/Putti と呼ばれ、古典的なモチーフとして、石棺、エッチングや彫刻、そして絵画やフレスコ画など、宗教的、世俗的な芸術作品にしばしば登場します。
プットは、智天使/Cherubケルビム の別の姿であるとされます。
ケルビムは、四つの顔と四つの翼を持つ怪物のような姿で描かれてきましたが、不老とされたのが誇張され、ルネサンス期にはそのまま描写するのではなく、翼を持つ愛らしい赤子の姿で描かれるようになりました。ただし、天使の本来の宗教的意味は失われており、単なる飾りとして本質的には装飾的に描かれることが多かったようです。
オリーブの美しく深い杢目と飴色の古艶を存分に活かしたシンプルなフォルムをもつスタンプボックスですが、なんともいえないしっとりとした質感は、いつまでも触れていたくなるような気持になります。
底面には黒いインクの染みがみられ、当時のデスクで確かに使われていた様子が伺えます。
素材と装飾に宗教的な背景が秘められたスタンプボックス。
切手はもちろん、大切なリングなどを仕舞えば、永遠に天使に守ってもらえるかもしれません。
◆England
◆推定製造年:c.1900-1940年頃
◆素材:オリーブウッド・真鍮
◆サイズ(外寸):幅約5cm 奥行約4.4㎝ 高さ約3.7cm
◆サイズ(内寸):約3.2×2.6cm 本体深さ0~1.5cm 蓋の裏側深さ約0.7cm
◆重量:35g
◆在庫数:1点のみ
【NOTE】
*古いお品物ですので、一部に微細な傷や汚れ等がみられますが、蓋の開閉は正常で、とても良い状態です。
*蓋側に金属の針状の出っ張りが、本体側にその受けとなる穴がありますが、特に「ぱちん」と閉まるわけではありません。
*日本の一般的な切手は無理なくしまうことが出来ます。
*詳細は画像にてご確認ください。
*画像の備品は付属しません。
*上記ご了承の上、お求めください。
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Todd Lowrey Antiques
by d+A