英国アンティーク、1918年製のプリズムコンパス。
イングランドの大きなアンティーク・フェア。
全体が大きな芝生のショーグラウンドですが、その中に数軒体育館のような建物があり、その中にはアンティークディーラーがみっちりとストールを並べています。
屋外にももちろん沢山のディーラーがいるので、屋外をみるか屋内をみるか、バイヤーはそれぞれの得意分野とみあわせながら、作戦を練るとことなります。
さて、今回私たちは屋内のクオリティ高めのディーラーをまわってみました。
その中で見つけたのは望遠鏡やコンパス等を専門に扱っている眼鏡の英国人のお兄さん。
ちょっとおタク風の外見そのままに、質問を受けるや否や熱いトークで品物の説明が始まります。
そんな彼から買い付けたのが、今回ご紹介するコンパス。
「これは第一次大戦後、1918年のオリジナル。盤はマザーオブパールだし状態もいい。ケースもついてるし」
・・・実は、他にも沢山説明をしていたのですが、正直覚えきれておりません。
英国のアンティークコンパスは世界的に人気で、人気モデルの復刻版=リプロダクションが多く流通しております。
リプロダクションでもなかなかよくできた物も多いのですが、やはりオリジナルは別格。
気が付けば望遠鏡や他のコンパスとともに手に入れておりました。
まず、タイプとしてはプリズム(プリスマティック)コンパスです。
蓋を開け、サイティングスリットを倒し、ヘアラインを対象物に合わせ、プリズムを覗きながら操作すれば
対象物までの距離や、対象物の大きさなどを測ることができるという機能をもっています。
また、コンパス表面には以下の文字がみられます。
VERNERS PATTERN
これは、Willoughby Verner/ウィロビー・バーナー(1852-1922)によって開発されたコンパスの名前。
英国の兵士、作家、鳥類学者でもあった彼が1895年に開発したものです。
初期のものはプリズムはついていませんでしたが、その後改良を重ね、プリズムが組み込まれるようになってゆきました。
また、コンパス表面の「VIII」は、このコンパスが「VERNERS PATTERN VIII」であることを示すもの。
「VERNERS PATTERN VI」が1909から1910年に作られたもので、その後に「VII」が、そしてすぐに「「VIII」が作られたらしいので(詳細期間は不明)このコンパスの1918年という年代はちょうどあてはまるのではないでしょうか。
裏面にはもう一つの特徴、矢印のマーク。
これは「ブロードアロー/Broad Arrow」とよばれるマークです。
もともとはヨーロッパにおいて紋章としてつかわれていた「pheon/小槍」などが元といわれており、17世紀末頃から英国の官有物にマークとしてつけられるようになりました。
主として軍用でしたが、他の用途にも使われることがあったようです。
植民地時代のアメリカやオーストラリアにおいても使われており、軍や官庁などのサーベイマーカーとしての使用がみられます。
英国において、機器や備品関係などでこのブロードアローがついているものであれば、まずは英国軍のものであった可能性が高いといえるでしょう。
矢印の下には「F-L」の文字が刻まれています。
これはメーカーズマークであり、おそらくロンドンの「French & Sons Ltd」を表すものと思われます。
最後にケースをみてみましょう。
ケースの蓋を開けると、以下の文字が刻印されています。
JABEZ CLIFF & Co
WALSALL
1918
「JABEZ CLIFF & Co」とは、George Cliff が1793年にイングランドのWalsall/ウォルソールにおいて皮革製品を扱いだして始まった会社のこと。
1873年に息子のJabezが継ぐことにより「JABEZ CLIFF & Co」となります。つまりこのケースは、革製品を扱う同社がこのコンパス用に作ったものであると思われます。
ケースの蓋には以下の文字が手書きで書かれています。
R.H.TALBOT CRONEY
Nth Staff's(?)
おそらく「R.H.TALBOT CRONEY/R.H.タルボット・クローニー」はこのコンパスの持ち主の名前。
ちょっと読みづらい「Nth Staff's」は彼の部隊なのかもしれません。
以上、かなり長くなりましたが以下のようにまとめてみましょう。
このお品物は「英国軍人タルボット・クローニー氏が愛用していた、JABEZ CLIFF & Coの特注ケース入り、1918年French & Sons Ltd製バーナーズパターンVIIのプリズマティックコンパス」です。
(若干の推測も混じっていることをお許しください)
歳月を経て変色した真鍮。
ゆらりと煌めく盤のマザーオブパール(真珠貝)。
ぴたりと嵌る革製ケース。
小さくても持ち重りのする存在感は、さすがオリジナルの風格です。
英国軍人の手の中で、第一次大戦の最後(1914-1918)を共に過ごしてであろう小さな英雄。
貴方のお手元においたとき、時代の小さな証人として語りかけてくるものがきっとある・・・ような気がいたします。
参考サイト
バーナーズパターン・コンパスについての海外コレクターのサイト(英語版)
「Verners Pattern Prismatic Compasses」
http://www.compasscollector.com/article_page_5.htm
Jabez Cliff and Coについてのサイト(英語版)
Grace's Guide to British Industrial History「Jabez Cliff and Co」の頁
https://www.gracesguide.co.uk/Jabez_Cliff_and_Co
◆England
◆推定製造年代:c.1918年
◆素材:真鍮、ガラス、真珠貝、革、他
◆サイズ:約5.8×8.1cm 厚み約2.1cm
◆ケースサイズ:約10×8.2cm 厚み約3.4cm
◆本体重量:152g
◆在庫数:1点のみ
【NOTE】
*古いお品物ですので、一部に小傷や汚れ、錆や変色等がみられます。詳細は画像にてご確認ください。
*現在のところ磁針はほぼ正確ですが、古いお品物のため今後の保証の限りではございません。
*革製ケースには革の劣化がみられますが、現在のところ実用に耐えるクオリティと思われます。
*画像の備品は付属しません。
*上記ご了承の上、お求めください。
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Todd Lowrey Antiques
by d+A